『鉄人28号』の音楽に伊福部昭――!?
これは、もともと2004年版のTVアニメ・シリーズを監督した今川泰宏監督の悲願だったらしいです。結果的にTVシリーズは千住明が音楽を担当し、絶妙の効果を上げたわけですが、もし伊福部鉄人が実現していたら……?
それが実現してしまったのですよ。2007年3月から公開される今川監督の新作劇場用アニメ『鉄人28号 白昼の残月』の劇中音楽は、伊福部昭の作品から選曲されています。選曲といっても、他作品のサントラの流用ではなく、純音楽作品からの選曲。初期の管弦楽作品が中心で、それが、戦後間もない時代を舞台にした映画の雰囲気とよくマッチしています。
ちなみに、これは無断使用ではなく、伊福部先生がお元気なときに、使用の許可をいただいていたとのことです。ですから、「伊福部昭が認めた最後のサントラ」と呼べるかもしれません。
ただ、東宝特撮映画の伊福部音楽を期待する向きには、ちょっと拍子抜けかも。「日本狂詩曲」「土俗的三連画」「シンフォニア・タプカーラ」といったシブい作品中心なので、怪獣映画音楽のような派手さはありません。大阪万博の三菱未来館用の音楽を流用した『ゴジラ対ガイガン』とはおもむきが異なります。でもじっくり聴いてもらえれば、いかにも伊福部昭らしい音楽だとわかってもらえると思うのですね。
サントラ盤はキングレコードから発売。映画に使われた音楽は、キングレコードから発売中のCD「伊福部昭の芸術」シリーズを中心に選曲されています。ということは、同シリーズを全部買った人はサントラ盤を買う必要なし、になるわけですが、それは承知の上です。サントラ盤はコアな伊福部ファンではなく、はじめて伊福部音楽に触れる人向けに作りました。いわば、伊福部昭入門編です。
私は選曲・構成にはタッチせず、解説のみ書かせていただきました。自分で選曲・構成していたら、きっとすごく悩んだと思いますね。
まず、劇中使用曲を全部収録するにはCD1枚では足りない。というのも、もともとが観賞用の曲ですから、1曲が長いんです。劇中では1分ぐらいしか使っていなくても、原曲は5分くらいある。いくらなんでも、つまんで収録するわけにはいかないので、まるごと収録しています。
また、たとえば全3楽章からなる管弦楽曲の第2楽章のみが本編で使われていた場合、作曲者の意向とすれば、全楽章通して聴いてほしいと思うわけです。伊福部昭入門編としても、そうあるべきでは??? と思うのですが、それも収録時間の都合から難しい。
結局、この作品から1曲、こっちの作品から2曲、みたいな収録のしかたになってしまう。
曲順も難しいですよ。本編使用順に並べると、1つの管弦楽作品の中で曲順が前後してしまうところがあるし、もともとがサントラ用の曲ではないわけですから、通して聴けばストーリーがよみがえる、というわけにはいかないと思うのですね。
ですから、サントラ盤は、本編使用曲を、さらに鑑賞用に再構成した、「伊福部昭の芸術 ハイライト」とでも呼ぶべき内容になっています。
解説は3段がまえにしました。伊福部先生の紹介ページ、収録曲を純音楽作品として解説したページ、そして、映画で使われた楽曲をCD収録・未収録を問わず、登場順に紹介したページ。伊福部昭入門盤であり、同時に映画のサントラでもある、という二つの要求に応えようと苦心しました。
伊福部先生ご存命のうちは、先生の単独アルバムにかかわることはできませんでしたが、こういう形で伊福部作品の仕事ができて、少しは恩返し(?)できたかなと思っています。
<収録曲リスト>
日本狂詩曲(1935)より
1. I.夜曲
2. II.祭
土俗的三連画(1937)より
3. II.ティンベ
交響譚詩(1943)より
4. 第2譚詩:アンダンテ・ラプソディコ
シンフォニア・タプカーラ(1954/79)より
5. 第1楽章
管弦楽のための「日本組曲」(1933/91)より
6. 第2曲:七夕
舞踏音楽「サロメ」(1948/87)より
7. 前奏曲
8. ヘロデ王宮殿内の広いテラス
9. ヘロデ王と王妃ヘロディアス、及び廷臣たちの登場 ヘロデ「サロメは何処だ?女王は何処だ?」
10. ヘロデは、もうサロメから目線を外さない
11. ヘロデ、サロメ、ヘロディアスII
12. サロメ「私は、召使たちが香料とヴェールを持ってくるのを、そして、私のサンダルを脱がしてくれるのを、待っているのです」
13.兵士の序楽(1944)
14.進め!正太郎/六本木男声合唱団倶楽部
15.鉄人28号/六本木男声合唱団倶楽部
ボーナストラック
16.お富さん/春日八郎
付記(2007/03/06)
MYCOMジャーナル 3月5日の記事(ホビー>ニュース)で取り上げていただきました。
「いよいよ公開間近! 映画『鉄人28号 白昼の残月』のサウンドトラック発売」
付記2(2007/03/14)
解説書の使用曲リストでは省略しましたが、本編序盤で正太郎たちが乗る汽車内の現実音として、春日八郎の「赤いランプの終列車」が流れています。
映画パンフレットには、上記を含めた完全版使用曲リストを掲載していただきました。ぜひ、劇場でお買い求めください。