ちまたのうわさによれば、『電脳コイル』はアニメファン以外にもけっこう注目されているらしい。
『電脳コイル』は、NHK教育テレビで放送中のTVアニメです。これも、『精霊の守り人』とは別の意味で、NHKならではの作品。土曜日は朝『精霊の守り人』を観て、夕方『地球へ…』と『電脳コイル』を観るのがなによりの楽しみですよ。
舞台は近未来の電脳都市・大黒市。といっても、神社仏閣が立ち並ぶ、一見、古風な日本の地方都市です。街全体にネットワークが張り巡らされ、目に映る街に重なって、目に見えない電脳空間が存在しているという設定です。この街では、特殊なメガネをかけることで電脳世界にアクセスできる。メガネがないとコミュニケーションにも遊びにも不自由するので、主人公である中学生のヤサコはじめ、子どもたちもみんなメガネをかけているわけです。
サントラは、なんといきなり2枚組。やりますね。といっても、収録時間は2枚合わせて80分弱、1枚に入るんじゃないの?とも思いますが、2枚に分かれているおかげで手頃な長さで聴きやすい。お値段は3000円(税込)と1枚もの並抑えられてます。
音楽は斉藤恒芳さん。葉加瀬太郎らとユニット"クライズラー&カンパニー"を結成して活躍したピアニストです。90年代後半から本格的に映像音楽を手がけはじめたので、まだ作品数は少ない。『蒼穹のファフナー』(2004)や『タイドライン・ブルー』(2005)の音楽を担当しています。
DISC1は、事件の始まりを予感させる「予兆」、チェイスチューン「暗黒の街からの脱出」、大黒市の不思議な雰囲気を描写する「鳥居の町」、ミステリアスな「影」「神秘」、ヤサコとフミエらの友情を描写する「夕焼け」「友情」など、新しい街に転向してきたヤサコが出会う不思議と不安、友情を表現する音楽が集められています。
DISC2は、ユーモラスなメロディバックに不安感をあおるピアノが印象的な「企み」、スピード感たっぷりのナンバー「風」、ヤサコとダイチ、イサコら、またはイリーガル、サッチーらとの電脳バトルの場面によく流れる「戦い」「対峙」、電脳都市の迷宮を表現する場面によく使われる「子供の遊び」など、活動的な曲が中心になっています。後半の「光射す道」「歪んだ風景」などは今後の展開を予想させるようなナンバー。ラストは電脳コイルの世界観全体を表現したような「電脳都市」で締めくくり。
「電脳もの」だからといって電子音を強調するのではなく、小編成の室内楽風の音楽で中学生の日常を表現しているのは、いかにもNHKらしくて好印象です。
初回限定特典のステッカーはジャケットとは別デザイン。実にいいカンジです。
そして、この番組を観た人の誰もが深い印象を受けるのが、オープニング主題歌ではないでしょうか。シンガーソングライターの池田綾子さんが作詞・作曲し歌った「プリズム」は、単なるイメージソングでもなく、もちろんタイアップ曲でもなく、『電脳コイル』のテーマをみごとに表現したすばらしい完成度の曲です。
『電脳コイル』のテーマって、いま勝手に言ってしまいましたけど、この作品のテーマのひとつは「目に見えない世界がある」「子どもにしか見えない世界がある」ってことだと思うんですね。
こういう番組主題歌は、レコード化を前提として最初からフルコーラスのものが作られ、TV用にはトラックダウンと編集で1分30秒に縮めたものが使われることが多いんですが、この歌は、まずTVサイズから作られたそうです。このアルバムに収められたTV editヴァージョンで、1つの音楽として完成されてるんですよ。
フルサイズは、TVサイズの作業のあとでアレンジ、録音されました。シングル盤は8月29日発売。カップリングのエンディング曲「空の欠片」も池田さんの作詞・作曲・歌です。レコードサイズがどんなふうに仕上がっているか、いまから楽しみだなぁ。
◎プリズム/空の欠片/旅人 [初回生産限定版/DVDつきMAXI] (池田綾子)