日テレ系で火曜深夜に放送中のアニメ『秘密(トップシークレット) 〜The Revelation〜』が怖い〜。
死者の脳に残された視覚記憶をMRIを用いて映像化する技術が実用化された近未来。科学警察研究所 法医第九研究室(通称“第九”)では、その技術を用いた「MRI捜査」が行なわれていた。犯罪に巻き込まれて死んだ人間(被害者・加害者)の脳から記憶を再生し、事件の謎を解明するのだ。それは死者の「秘密」をあばくことでもあった――。
SF的ガジェットを使っているが、つくりは『羊たちの沈黙』を思わせるサイコサスペンス。猟奇的な犯罪と被害者、悲劇的な過去や病んだ心を持った犯罪者たちが次々登場して、「うわー、たまらんなぁ」と思うことたびたび。
そんな『怪奇大作戦』ばりのドラマをこの上もなく盛り上げているのが、平野義久の音楽なのです。
平野さんの作品は、このブログでも『栞と紙魚子の怪奇事件簿』を取り上げました。『栞と紙魚子』はホラーテイストとはいえ、どちらかというとコメディ。『秘密』はホンキで怖い。
その怖さの秘密は、現代音楽の手法を駆使したサウンド。シンセなどの電子楽器の使用を抑え、古典的なオーケストラを使った現代音楽の書法で書かれています。不協和音がぎしぎしうなり、落ち着かない音の泡立ちが心をざわめかせる。映画『猿の惑星』のゴールドスミスの音楽や、『2001年宇宙の旅』で使われたリゲッティの音楽を思わせる。
平野さんに話をうかがったら、実際「50〜60年代の現代音楽」を意識したのだそうです。それが、懐かしくも新しい。ほかにも、音を一つ一つの粒ではなく塊として使う“トーンクラスター”という手法を用いたり、あえてデジタルな音楽とは対極的な手法を追及したのだとか。
サントラの冒頭に置かれた「The Number Nines」は「第九のテーマ」。ほかの曲とはちょっと趣が違い、海外ドラマのテーマ曲のようなカッコいい曲。
しかし、「Chaos」「Darkness」などでは、現代音楽の手法を用いたホラー/サスペンス・サウンド全開。いかにも『秘密』の作品世界にふさわしい不安な曲調が背中をぞくぞくさせる。
「What He Saw」や「In the Realm of the Memories」には、ジョン・ゾーンの作品をほうふつさせるミュージック・コンクレートの手法が使われている(ジョン・ゾーンは平野さんが少年時代に影響を受けた作曲家のひとり)。
「Himitsu」は民族音楽的な旋律とラテンっぽいリズムが融合した曲で、不気味だけれど人間くさい、ふしぎな曲になっている。
全体に、ただ怖いだけでなく、人間のふしぎさ、多面性を表現したような味わい深いアルバムになっています。
本作に限らず、平野さんの作品は「劇伴」の枠をはみ出したものが多い。幼少時はバロック音楽、少年時代はジャズに傾倒した平野さんは、高校卒業後、単身渡米。イーストマン音楽大学作曲科に入学して現代音楽を学びます。帰国後、仕事を探していたときに今の事務所のマネージャに出会って、2001年にアニメ『爆転シュート ベイブレード』の音楽で本格デビュー。以後、『桜蘭高校ホスト部』『鋼鉄神ジーグ』『DEATH NOTE』など、数は多くないものの、映像音楽作家として着実に実績を重ねている。その作風には平野さんの音楽歴がにじみ出しています。たとえば音大の映画音楽コースで映像音楽を学んだ作家の音楽とは、明らかに違うのです。
緻密なオーケストレーションに支えられた音楽は、さらっと聴いただけだと親しみにくい。打ち込み全盛の最近の映像音楽を聴きなれた耳には、耳障りに聞えるかもしれない。でも、じっくり聴けば面白さがわかるはず。「燃える曲が好き」「美しい曲が好
き」という人にも、食わず嫌いにならずぜひ試していただきたいサウンドです。映像音楽というジャンルの持つ奥深さが、凝縮されていると思うのです。
◎秘密(トップシークレット) 〜The Revelation〜 オリジナル・サウンドトラック

◎RD潜脳調査室 オリジナル・サウンドトラック
東京では『秘密』と同じチャンネル&連続する時間帯で放送中。『秘密』と同じく脳内世界を扱った作品だが、『秘密』とは対照的に、ヒューマンで明るい音楽をめざしたそうです。

◎DEATH NOTE オリジナル・サウンドトラック
アニメ版サントラ。映画『オーメン』の“Ave Satani”を思わせるコーラス曲やダイナミックなプログレッシブ・ロック。実写映画版の川井憲次とはまた違う『DEATH NOTE』の世界です。タニウチヒデキと共作。

◎鋼鉄神ジーグ オリジナル・サウンドトラック
ワーグナーを思わせるパワフルなスコア。平野さんは「ロボットものの王道」のつもりで書かれたそうですが、とても斬新です。

◎桜蘭高校ホスト部 サントラ&キャラソン集 前編
バッハ風、モーツァルト風など、さまざまな音楽スタイルを使ったパロディックな作品。平野さん自身気に入っている作品のひとつ。「後編」も発売中。
