2009年02月03日

2月1日 生きる 2009〜若い命を支えるコンサート〜

 私はフルート奏者・高木綾子さんのひそかなファンなのですが、彼女の演奏を生で聴いたことはありませんでした。いつか生で高木さんのフルートを聴きたい!と思っていたのです。

 2月1日にみなとみらいホール大ホールで開催されたコンサート「生きる 2009 〜若い命を支えるコンサート〜」に足を運んだのはそんな理由からでした。

 2部構成で高木綾子さんは第1部後半に登場。前半では小学5年生のヴァイオリン・ソリスト東條太河くんがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏し、喝采を浴びていました。

 高木さんは赤いドレスでステージへ。
 フランスの女性作曲家・シャミナードの「コンチェルティーノ」、ビゼーの「メヌエット」(「アルルの女」より)、グルックの「精霊の踊り」、名フルート奏者でもあったジュナンの「ヴェニスの謝肉祭」の4曲を演奏。ビゼーとグルックの曲はもともとは劇音楽で、いわば近代“劇伴”の元祖ともいうべき作品です。劇音楽(映像音楽)もこういう形でコンサートで取り上げられるようになるとスタンダード、クラシックとして残っていくんですよね。「ヴェニスの謝肉祭」のポピュラー音楽のようなオーケストレーションは、「これが19世紀の作品?」とちょっと驚きでした。
 小品中心ではありましたが、高木さんのフルートの豊かな音色が聴けたし、美しい姿を拝見できて満足まんぞく。

 第2部は館野泉さんのピアノをフィーチャーした、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」から。

 私は海外のクラシック作曲家ではラヴェルとヴィラ=ロボスが圧倒的に好きで、そのラヴェルのあまり演奏される機会のない作品が取り上げられていることも、このコンサートの来た目的の一つでした。

 館野泉さんはピアノストとして世界各国でリサイタルを行なうなど活躍していましたが、2002年に脳出血で倒れ、右半身に麻痺が残りました。ピアニストとしては致命的とも思える障害を、館野さんは左手だけで演奏する訓練をすることで乗り越え、復帰を果たしたのです。「左手のピアニスト」。音楽ファンは館野さんを敬意をこめてそう呼ぶようになりました。林光や吉松隆ら多くの作家が館野さんのために左手だけで弾くピアノ曲を献呈しています。

 「左手のためのピアノ協奏曲」を聴くのははじめてですが、その迫力に圧倒されました。ラヴェルといえば、色彩豊かで官能的で、酩酊感を誘うオーケストラの魔術師。そんなラヴェルが書いた曲の中でも、きわめてダイナミックでドラマチックな曲ではないでしょうか。切れ目のない1楽章のみで演奏時間20分という特異な構成。ファゴットとコントラバスが奏でる導入からオーケストラの全合奏に至る劇的な序奏が終わると、一瞬間をおいて、館野さんのピアノが歌い始める。クラシックには不似合いな言葉ですが、「カッコいい!」というしかありません。

 その館野泉さんのピアノを生で聴けたことは、このコンサートの思わぬ収穫でした。深みのある力強いフォルテ。繊細で美しいピアニッシモ。左手だけで弾いているとは思えないフレージング。両手で自由に弾くピアノのような流麗さはないかもしれませんが、一音一音に命が宿っているかのような胸を打つ響きでした。

 私もちょびっとだけピアノを弾きますが、左手一本でどうやってこんな演奏ができるのか、驚きでした。すばらしい技術と表現力に裏打ちされた、命の響き。「生きる」と題されたコンサートにふさわしい名演でした。

 第2部のラストの曲はラヴェルの「ボレロ」。ラヴェルの作品の中でももっともポピュラーなこの曲、演奏を聴くたびに新しい発見があります。そして、アンコールには、舘野泉さんの現在の活動の拠点であるフィンランドにちなんで、シベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。東京フィルのメンバーの舘野さんへの敬愛が感じられる粋な選曲と演奏でした。

 その後、偶然テレビで、やはり病気のため左手だけでピアノを弾く道を選んだ若い女性ピアニストのドキュメントを観る機会がありました(2月2日のNHK『挑戦』に登場の内藤裕子さん)。不勉強にして知らなかったのですが、左手だけのピアノ曲というのはけっこうポピュラーなものだったのですね。鍵盤の高音から低音まで、移動のタイムラグを聴衆に意識させないで自在に弾く技術は、やはり生半可な訓練では会得できないもの。その左手の指先が奏でる音には、音楽への愛とプロ魂が込められています。


<set list>

第1部

    東條太河(Vn)

  1. メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 第1楽章
  2. 高木綾子(Fl)

  3. シャミナード:コンチェルティーノ
  4. ビゼー:メヌエット(「アルルの女」より)
  5. グルック:精霊の踊り
  6. ジュナン:ヴェニスの謝肉祭

第2部

    館野 泉(Pf)

  1. ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
  2. カッチーニ/吉松 隆編:アヴァ・マリア (アンコール)
     
  3. ラヴェル:ボレロ

アンコール

  • シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ

 下野竜也指揮/東京フィルハーモニー管弦楽団


EARTH 高木綾子
 クラシック曲に加え、村松崇継の書き下ろし「EARTH」を収録。「EARTH」はいかにも村松さんらしいイメージ喚起力のある楽曲。風吹く大自然の光景が目に浮かぶよう。生演奏で聴いてみたいものです。

 : EARTH

THE BEST 舘野泉  [Limited Edition]
 舘野泉さんが「左手のピアニスト」として復帰してからの演奏を集めたベスト盤。

 : THE BEST 舘野泉

posted by 腹巻猫 at 08:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ライブ/コンサート

2009年02月01日

ステファニー×満島ひかり 地上最大の決戦 「プライド」

 久しぶりに映画を観終わったあとサントラを買いに走るという体験をしました。

 一条ゆかり原作、金子修介監督の映画『プライド』です。

 昨年放映された金子監督演出のドラマ『ヒットメーカー阿久悠物語』はこの映画の前哨だったのではないか?と思わせるような芸能界ものの力作です。見どころはステファニーと満島ひかりの火花散るバトル。金子監督は「怪獣映画のようなつもりで」演出したそうですが、その言葉どおり、全編にわたり繰り広げられる、ニ大怪獣(女優)の激突に息もつけません。

 特撮ファンは、なんといっても『ウルトラマンマックス』エリー役でおなじみの満島ひかりの堂々たる女優ぶりに注目。そして、彼女が劇中歌っている歌は、序盤のオペラのシーンを除いて一切吹き替えなしというのですから驚きです。
 満島ひかりはもともとダンス・ヴォーカル・ユニット Folder の一員として活動していたので歌の経験もあるわけなんですが、今回は「歌が主役」といってもよい作品。彼女の歌が映画の説得力を左右する鍵になっています。
 たとえば、高級クラブで1曲だけ歌うことを許された萌(満島)が、その歌声で客の注目を浴びるという重要な場面で披露される「太陽の花」。また別の場面で、ステファニー演じる史緒と萌がデュエットする「A Song for You」。そして、二人の感情がステージ場で激突するクライマックスの曲「あなたと歌うと」。
 劇中の聴衆といっしょに、彼女の歌に観ているこちらも胸をゆさぶられてしまう。「5オクターブのハイトーンヴォイス」と呼ばれるステファニーと互角にわたりあう歌唱力・演技力に感動しましたよ。

 満島ひかりは間違いなく、本作品以降女優として大きく飛躍していくと思います。

 その歌を聴きたくて「サントラを買いに」となったわけですが、もう一つ、映画を彩る劇中曲(サウンドトラック)もすばらしいものでした。

 音楽担当は清水信之。ポップスの世界ではアレンジャー、プロデューサーとして平松愛理やEPO、渡辺美里らの楽曲を手がけている清水さんですが、本格的な映画音楽はこれがはじめてでしょうか。映像音楽では名前を拝見したことがありません。
 しかし、『プライド』の音楽は「これぞ映画音楽」と呼びたくなるような名曲ぞろいです。弦とピアノ、ときにチェンバロの響きを生かしたバロック風のサウンドで、ドラマの情感をみごとにリード。「怪獣映画」らしく、盛り上げるところは最大振幅で盛り上げ、観客をぐいぐいと映画の世界に引きずり込んでいく。これが映画音楽ですよっ!!

映画「プライド」 オリジナル・サウンドトラック
 劇中の歌「太陽の花」「あなたと歌うと」も清水信之の作。ジャケットも「二大怪獣の激突」っぽい!?

 : 映画「プライド」 オリジナル・サウンドトラック

Pride〜A Part of Me〜feat.SRM ステファニー(初回生産限定盤)(DVD付)
 映画『プライド』主題歌シングル。初回限定版のDVDには映画撮影時のオフショットムービーを収録。

 : Pride〜A Part of Me〜feat.SRM

posted by 腹巻猫 at 11:04| Comment(0) | TrackBack(0) | CD