4月19日、東京芸術劇場で開催された、日本フィルハーモニー交響楽団サンデーコンサートに足を運びました。
この日の演目は、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」!
1978年に発売されて大ヒットし、アニメ音楽が続々レコード化されるきっかけとなったアルバムをコンサートで再現しようという企画です。
指揮と司会は宮川彬良さん。
開幕1曲目は、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」から「イスカンダル」。バスフルートの音色が導く序奏から、弦が奏でるイスカンダルのテーマにうっとりです。この曲はLPレコードではB面に収録されていた曲で、激しい戦いのあとに現れる希望の星をイメージさせる曲です。レコードで何度も聴いていたサウンドそのままの再現に感激。
演奏後マイクを握った彬良さんは、「このホールのステージに立つのは3年ぶりです」と語り始めました。
3年前。それは、ヤマト・サウンドの生みの親・宮川泰先生が亡くなって直後のコンサートでした。
その場で、「いつか、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』を完全上演したい」と彬良さんが言ったのを、私も覚えています。
それから3年。
3年間の月日が必要な理由がありました。なんと、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のスコアが残っていなかったのです。唯一残っていたのが、1曲目に演奏した「イスカンダル」1曲のみだったとのこと。
宮川泰先生は、生前、コンサートで「組曲 宇宙戦艦ヤマト」を演奏する機会が幾度もありました。それは、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」そのままではなく、演奏会用に抜粋しアレンジしたヴァージョンでした。1999年の「幻想軌道コンサート」などで演奏されたのもそのヴァージョンです。
そうこうするうちに、オリジナルの「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のスコアはどこか行っちゃったのでしょう。羽田健太郎先生も、生前、スコアをまとめてちり紙交換に出してしまったそうですから、売れっ子作曲家にはありがちなことなのかもしれません。
しかし、彬良さんにとって、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」は、父の作った作品というだけでなく、自身が子どものころから何度も繰り返し聴いてきた「音楽の原点」と呼べる存在でした。
なんとか、全曲を完全版で演奏したい。
その思いからスタートした「『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』再生プロジェクト」。その第1弾がこの日のコンサートでした。
コンサートは2部構成。
第1部では、星、空、宇宙にちなむ曲が演奏されました。
「見上げてごらん夜の星を」はいずみたくのメロディに『ヤマト』や『ET』の旋律を散りばめたアレンジ。
「深い河」は、「空の上に横たわる河」をイメージしてアレンジしたそうです。
いずれも、彼岸の世界のイメージが重ねられている。つまり、天国の宮川泰先生に捧げられた演奏です。
サックスの代わりにピアノをフィーチャーした「ムーンライト・セレナード」をはさんで、錦織健さんが登場。
「オー・ソレ・ミオ」「空のわすれもの」「あの宇宙を、征け」の3曲を熱唱して第1部は幕となりました。
第2部はいよいよ「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」。
再生プロジェクト第1弾として、レコードのA面までが演奏されました。
ここで驚いたのは、「序曲」。川島和子さんが担当するスキャットを錦織健さんがテノールで歌うという趣向です。キーはオクターブ下。
錦織さんが歌うと男性的で、『ヤマト』というより、まるで『銀河英雄伝説』の世界のよう。
これはこれでありかもしれません。
けれど、あの女性スキャットは「宇宙の彼方に美女が待っている」という『ヤマト』の原イメージを表現しているのですね。その神秘性、幻想味は薄れてしまったかな。
この「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」は、オーケストラ+ポップスのリズム隊という変則的な編成で演奏されます。
今回も、日本フィルに加えて、ドラムス、ギター、エレキベースが入っていました。エレキベースは最近売れっ子のベーシスト・齋藤順さん。菅野祐悟さんや村松崇継さんらとも仕事をしている人です。
そのリズム隊の音がしっかり聴こえたのはよかった。基本的にオケは生音で、電子楽器はPAで拾ってスピーカーから出しているのですが、そのバランスが難しいんですよ。今回はいいPAだったと思います。
ラストは「真赤なスカーフ」「宇宙戦艦ヤマト」をささきいさおさんの歌で。
錦織さんは、「合唱組曲」かなにかの仕事で、「真赤なスカーフ」のバックコーラスを歌ったことがあるそうです。どうせなら、やってほしかった。
「宇宙戦艦ヤマト」では錦織健さんがバックの女性コーラスに原キーで挑戦。みごとに歌いこなしていたのはさすがでした。
アンコールはすっかりスタンダード曲になった「ゲバゲバ90分のテーマ」。奇跡的にDVD-BOXも発売されることだし、タイムリーでした。
「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」再生プロジェクト。おおむね満足の演奏でした。欲をいえば、第4楽章はもう少し歯切れよくとか、第5楽章のしだいにアレグロになるところをもっとくっきりしたリズムでとか、注文はあるのですが、それは演奏を繰り返すうちによくなっていくでしょう。彬良さんの指揮はちょっとお父さんに遠慮していたかも。宮川泰先生が振ったときのエンターテインメントな感じ、サービス精神旺盛な雰囲気が出るともっとよかった。
でも、この試みはすばらしい企画だと思います。演奏者もヤマト世代になってきたのですね。B面が聴けるのが楽しみですが、また3年後でしょうか。
<セットリスト>
第1部
- イスカンダル(宮川 泰)
- 見上げてごらん夜の星を(いずみたく)
- 深い河(黒人霊歌)
- ムーンライト・セレナーデ(グレン・ミラー)
- オー・ソレ・ミオ(カプア)**
- 空のわすれもの(宮川彬良)**
- 「タイタニア」より“あの宇宙を、征け”(高木 洋)**
第2部
交響組曲 宇宙戦艦ヤマト より(宮川 泰)
- 序曲 **
- 誕生*
- サーシャ
- 試練
- 出発(たびだち)
- 追憶
---------------
- 真赤なスカーフ
(宮川 泰)*
- 宇宙戦艦ヤマト
(宮川 泰)* **
アンコール
・ゲバゲバ90分のテーマ
(宮川 泰)
* ヴォーカル:ささきいさお
** テノール:錦織 健